きのこ中毒に注意

日本中毒情報センターには、例年夏から秋にかけて、きのこ中毒の問い合わせが多く寄せられます。
きのこ狩りで採ったきのこを食べて、重い中毒症状が出現する事故は毎年のように起こっており、なかには死亡例もあります。

採ったきのこに有毒きのこが混じっているかもしれません。また、直販所で購入したきのこに有毒きのこが混じっていたという事例も報道されています。
きのこは生息している場所や時期によって形が異なり、専門家でも見分けることは困難です。
中毒を防ぐために、食べないだけでなく、近所や知り合いにも配らないようにしましょう。近所や知り合いからもらった場合も同じです。

 採らない!
 食べない!(もらった場合も!)
 配らない!

きのこを食べて症状がある、自分には症状がなくても一緒に食べた人に症状がみられるなど、有毒きのこを食べた可能性がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
受診する際は、残っているきのこや調理したものなどを持参し、きのこの形態、採取場所、調理方法、摂取量、摂取時刻、他に食べたもの、症状とその発現時刻、他にも食べた人がいるかどうかなどを詳しく伝えましょう。

有毒きのこによる中毒症状

なお、海外では以上の他に、オレラニン群(腎障害)、Allenic Norleucine含有きのこ(腎障害)が確認されています。日本においても、新たな毒きのこの存在は否定できず、注意が必要です。

1.潜伏期間を経て、或いは遅発性に重篤な中毒症状を発症するきのこ

アマトキシン群

タマゴテングダケ、ドクツルタケ、コタマゴテングタケ など
6~24時間の潜伏期の後、コレラ様の下痢を特徴とする消化器症状が出現する。その後、一時回復したようにみえるが、1~3日後に肝障害となり、4~16日後に死亡することもある。

ニセクロハツ

比較的早期(摂取後数十分~2時間位)に消化器症状が、続いて、脱力感、胸痛を含む全身の筋痛、肩こり、頚部硬直、痙攣などの横紋筋融解症を疑う症状が出現する。重症例では遅発性(摂取30~48時間後)に急激な循環不全が出現し、死亡することがある。

モノメチルヒドラジン群

シャグマアミガサタケ など
6~24時間の潜伏期の後、悪心・嘔吐、水様性下痢または血便が生じる。重症者では発熱、肝障害から痙攣、昏睡に陥り、死亡することもある。

2.悪酔い症状や発汗、縮瞳を発症するきのこ

コプリン群

ヒトヨタケ、ホテイシメジ など
きのこ摂取の直前から5日後までの間にアルコールを摂取した場合にのみ発症する。アルコール摂取30分~2時間後に顔面紅潮、不安焦燥、頻脈、呼吸困難、低血圧等のジスルフィラム様作用(アンタビューズ作用)による症状が現れる。通常、症状は4時間以内に回復する。

ムスカリン群

アセタケ、カヤタケ、ハイイロシミジなど
30~120分後より発汗、分泌亢進、徐脈、縮瞳、視力障害、血圧低下等のコリン様症状が出現する。重症の場合は中枢神経刺激症状も発現する。

3.幻覚やせん妄、見当識障害を発症するきのこ

イボテン酸群

ベニテングタケ、テングタケ、イボテングタケ など
15~90分以内に、めまい、運動失調から昏迷、譫妄等が出現し、意識消失する。この状態は通常4~8時間持続するが、単に睡眠状態のことも多い。後遺症として数日間頭痛が続くことがある。

シロシビン群

シビレタケ、ワライタケ、(マジックマッシュルーム) など
30分以内にめまい、嘔気、脱力感、不穏、口唇のしびれ等が出現し、続いて幻覚、流涙、発汗、顔面紅潮が現れる。幻覚は強くなるが、2時間後から漸減し、4~12時間でほとんど正常に戻る。

4.消化器症状が主たる中毒症状であるきのこ

胃腸障害型きのこ群のきのことしてツキヨタケ、イッポンシメジ、クサウラベニタケ、ニガクリタケなど
きのこの種類により異なるが、通常30分~2時間後に悪心・嘔吐、腹痛、下痢が出現、3~4時間で消退し、1~2日で回復する。ただし、アオゾメツチカブリ、ドクベニタケ、ニガクリタケでは死亡例も報告されている。

ツキヨタケ

ニガクリタケ

摂取後10~46時間で、全身冷汗、嘔気、嘔吐、激しい水溶性下痢を生じる。ときに徐脈、低血圧、体温低下を伴う。重症の場合は肝腫大や黄疸などの肝障害、意識障害、けいれんなどが出現し、死亡することがある。

5.手足の先に激痛をおこすきのこ

ドクササコ

6~24時間後より胃の違和感、嘔気、全身倦怠感などが現れ、24時間前後に歯を噛むと「チャリチャリ」した感じがする。2~4日後、四肢末端の発赤、腫脹、疼痛、しびれ感が出現。疼痛は6日頃までにピークに達し、15日頃より軽減、30~50日で消失する。

なお、海外では以上の他に、オレラニン群(腎障害)、Allenic Norleucine含有きのこ(腎障害)が確認されています。日本においても、新たな毒きのこの存在は否定できず、注意が必要です。

参考文献
  • 山下衛、古川久彦:きのこ中毒、共立出版 1993
  • 化学物質毒性ハンドブック臨床編II、丸善 2003
  • 水野卓、川合正允:キノコの化学・生化学、学会出版センター 1992
  • Medical Toxicology 3rd Ed., Lippicott Williams& Wilkins 2004
  • Goldfrank’s Toxicologic Emergencies 6th Ed., Appleton & Landge 1998
  • POISINDEX.VOL.121. MICROMEDEX 2004
  • 戸崎洋子:救急医学、12(10)1551-1559,1988
  • 症例で学ぶ中毒事故とその対策「アマニタトキシン群のきのこ」「胃腸障害群のきのこ」「ドクササコ」
  • 毒きのこデータベース(横山和正)
  • Goldfrank’s Toxicologic Emergencies 7th Ed., McGraw-Hill 2002
  • 内藤裕史:中毒百科 事例・病態・治療 改訂第2版、南江堂 2001
  • 奥沢康正、久世幸吾、奥沢淳治:毒きのこ今昔 -中毒症例を中心として-、思文閣出版 2004

謝辞

2002年10月に京都府立植物園で開催されましたきのこ展にて、きのこの同定をしていただきました上田先生、並びに関西菌類談話会の皆様に謹んでお礼申し上げます。