2021年受信報告
公益財団法人 日本中毒情報センター
患者年齢層を10歳区分で集計した表を会員限定で公開しています。
→年齢10歳区分の表はこちら（会員向け）
はじめに
公益財団法人日本中毒情報センター（以下JPICと略す）では、中毒110番でのオペレーターによる電話応答のほか、たばこ専用自動応答電話、Webサイト、書籍、DVD-ROMなどの種々の媒体を通じて情報提供を行っている。 本稿では、中毒110番での電話相談の受信記録を中心に集計・解析し、その結果を報告する。
1． 中毒110番受信記録
(1)集計方法
集計の対象は、2021年1月1日から2021年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ26,836件であり、すべて昨年同様の方法で集計・解析した。データには一般専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。起因物質について、昨年同様、複数物質を曝露した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒に関する問い合わせは361件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。
(2)集計内容とその結果
1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ
対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。
2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
一般市民では、家庭用品が56%と最も多く、次いで医薬品が34%であった。医療機関では、医薬品が47%と最も多く、次いで家庭用品が37%であった。
3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ
全体をみると、5歳以下の問い合わせが68%を占め、例年同様の構成比を示した。 連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の問い合わせが72%を占め、医療機関では成人（20～64歳および65歳以上）の問い合わせが47%であった。その他では、学校（保育所等を含む）および高齢者施設からの問い合わせが多く、年齢層別では65歳以上が32%、5歳以下が29％であった。
4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数
患者の性別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、自然毒による成人の事例において、例年同様に女性が多かった。一般用医薬品の13～19歳は、女性が男性の４倍であった。 年齢層別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、自然毒、食品・その他についてはいずれも5歳以下の問い合わせが７割近くを占めたが、農業用品については成人が7割、工業用品については成人が5割であった。
5)発生場所別 受信件数
例年同様、自宅や知人宅などの居住内が90%と最も多かった。
6)起因物質数別 受信件数
単独物質の事例が91%で、残りは複数物質の曝露であった。最大は14種の医薬品を摂取した問い合わせであった。
7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ
各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多かった。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では90%が不慮の事故で例年同様の傾向を示した。
8)年齢層別 摂取経路別 受信件数
複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が87%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事例の占める割合が低かった。
9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無
すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は3割未満であった。一方、成人の有症状率は高く、20～64歳では農業用品、自然毒、工業用品、食品・その他で7割を超え、65歳以上では農業用品で7割を超えていた。
10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について
5歳以下において、家庭用品では化粧品による事故が最も多く、次いで洗浄剤であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。そのほかの各起因物質分類において、多少の変動はあるものの、全体の傾向は例年同様で大差はなかった。
(2)自殺企図について
例年同様に中枢神経系用薬の割合が高く、医療用医薬品の中枢神経系用薬が42％、次いで一般用医薬品の中枢神経系用薬が18％であった。
11)品目別 受信件数
大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。
家庭用品では、塩素系漂白剤が2019年787件から2020年は1,190件に増加し、2021年も1,005件受信した。除菌剤（物品用・空間用）は2020年888件から2021年497件に減少したが、手指に使用する医薬品・医薬部外品以外の除菌剤（化粧品）は2020年358件、2021年383件と同程度であった。たばこ関連品のうち紙巻きたばこはここ数年減少傾向であり、2021年は加熱式たばこ（吸い殻、浸出液含む）の問い合わせ件数がたばこ関連品の7割を占めた。
医療用医薬品では、精神刺激薬（ADHD治療薬）が2020年の65件から2021年は102件と増加した。また表には記載していないが、診断用薬17件のうち16件は、COVID-19抗原検査キットの抽出液やPCR検査キットの保存液などに曝露した事例で、使用時の事故が9件、小児等の誤飲が7件であった。
一般用医薬品では、手指消毒剤を含むエタノール含有外皮用薬が2020年に471件と増加し、2021年も429件と同程度であった。鎮咳去痰剤による自殺企図や乱用などの故意の事例は増加傾向にあり、2021年は44件であった。昨年同様、原因薬剤はコデイン類含有製剤が38件と8割以上を占めた。自然毒では、特に植物の受信件数が年々増加傾向である。
12)発生時刻分布
中毒の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午後5時から午後8時台となっている。
13)動物の中毒に関する受信件数
動物の急性中毒に関する問い合わせは361件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、植物、食品などの問い合わせが多かった。
2．たばこ専用自動応答電話
2021年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は2,574件(1日約7.1件)であった。この件数を加えると2021年1年間にJPICが受信したたばこに関する問い合わせ件数は4,137件となる。
3．日本中毒情報センターWebサイト
2021年のアクセス件数は約26.5万件で、そのうち医療関係者向けページへのアクセス件数は約2.3万件であった。
4．トピックス
JPICでは、大規模集客イベントやサミット等の国際イベント開催時には、化学テロの発生に備えて対応を行っている。2021年7～9月に開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会においても、化学テロの発生に備えて、関連機関との連携強化などの対策を講じて対応した。期間中に特記すべき事案は発生しなかった。
おわりに
2021年は、2020年に引き続きCOVID-19の拡大に伴うと思われる問い合わせ件数の変動が見られ、塩素系漂白剤や除菌剤、消毒剤などの問い合わせが感染の拡大前に比べて増加した。除菌剤・消毒剤が眼に入る事例が散見されたため、Webサイトで注意喚起を行った。一方で、二酸化塩素や次亜塩素酸含有の物品用・空間用除菌剤は2020年と比べ減少しており、除菌剤の使用方法の啓発や、エタノール含有除菌剤の充分な供給が背景にあると考えられた。その他、自宅などでCOVID-19に関する検査が手軽に行えるようになり、検査キットによる事故が新たに発生した。JPICでは引き続き生活様式の変化や新しい製品による事故動向を速やかに察知し、製造事業者や行政との連携をさらに強化して事故情報を共有するとともに、WebサイトやTwitterで事故防止につながる情報発信を的確に行っていきたい。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびWebサイト、Twitterアドレスを紹介する。
・ 一般専用電話 （情報提供料無料、通話料のみ）
（大 阪） 072-727-2499
365日 24時間対応
（つくば） 029-852-9999
365日 9～21時対応
・ 医療機関専用有料電話 （情報提供料：1件につき2,000円）
（大 阪） 072-726-9923
365日 24時間対応
（つくば） 029-851-9999
365日 9～21時対応
・ 賛助会員専用電話
賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年１回更新
・ たばこ専用自動応答電話 （情報提供料無料、通話料のみ）
072-726-9922
365日 24時間対応
Webサイト：https://www.j-poison-ic.jp
Twitter：https://twitter.com/JPIC_Poisoninfo
なお、賛助会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX：029-856-3533
E-mail：head-jpic@j-poison-ic.or.jp