2019年受信報告
公益財団法人 日本中毒情報センター
患者年齢層を10歳区分で集計した表を会員限定で公開しています。
→年齢10歳区分の表はこちら(会員向け)
はじめに
公益財団法人日本中毒情報センター(以下JPICと略す)では、中毒110番でのオペレーターによる電話応答のほか、たばこ専用自動応答電話、Webサイト、書籍、DVD-ROMなどの種々の媒体を通じて情報提供を行っている。
本稿では、中毒110番での電話相談の受信記録を中心に集計・解析し、その結果を報告する。
1. 中毒110番受信記録
(1)集計方法
集計の対象は、2019年1月1日から2019年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ30,462件であり、すべて昨年同様の方法で集計・解析した。データには一般専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。起因物質について、昨年と同様、複数物質を曝露した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒事故に関する問い合わせは404件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。
(2)集計内容とその結果
1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ
対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。
2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
一般市民では、家庭用品が54%と最も多く、次いで医薬品が36%であった。医療機関では、医薬品が41%と最も多く、次いで家庭用品が39%であった。
3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ
全体をみると、5歳以下の問い合わせが72%を占め、例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の問い合わせが77%を占め、医療機関では成人(20~64歳、65歳以上)の問い合わせが52%を占めた。その他では、学校(保育所等を含む)および高齢者施設からの問い合わせが多く、年齢層別では65歳以上が35%であった。
4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数
家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、自然毒による成人の事故は、例年同様に女性が多かった。年齢層別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、食品・その他については5歳以下の問い合わせがいずれも7割以上であったが、農業用品については20~64歳および65歳以上がいずれも4割、工業用品については20~64歳が4割であった。
5)発生場所別 受信件数
例年同様、自宅や知人宅などの居住内が90%と最も多かった。
6)起因物質数別 受信件数
単独物質の事故が92%で、残りは複数物質の曝露であった。最大は23種の医薬品を摂取した問い合わせであった。
7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ
各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多かった。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では91%が不慮の事故で例年同様の傾向を示した。
8)年齢層別 摂取経路別 受信件数
複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が89%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。
9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無
すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は2割未満であったが、20~64歳では5割を超えていた。
10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について
5歳以下において、家庭用品では化粧品による事故が最も多く、次いでたばこ関連品であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。そのほかの各起因物質分類において、上位品目の順位については多少変動があるものの、全体の傾向は例年同様で大差はなかった。
(2)自殺企図について
自殺企図995件では例年同様、中枢神経用薬の割合が高く、医療用医薬品の中枢神経系用薬が40%、一般用医薬品の中枢神経系用薬が16%を占めた。
11)品目別 受信件数
大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。本年より、近年問い合わせが増加している品目等を追加した(4.トピックス参照)。
家庭用品のうち加熱式たばこ(吸い殻、浸出液含む)は、昨年同様、1000件を超える問い合わせがあった。除菌剤は2017年322件、2018年391件、2019年463件と増加しており、アルコール除菌剤および二酸化塩素による除菌をうたった製品の問い合わせが多かった。なお消毒目的で人体に使用する製品のうち、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の医薬部外品に該当する製品は一般用医薬品、化粧品に該当する製品は家庭用品の「その他の化粧品」として分類している。
一般用医薬品のうち鎮咳去痰剤の問い合わせは176件あり、そのうち、自殺企図や乱用などの故意の事故は36件で、原因薬剤はコデイン類含有製剤が29件(8割)を占めた。なお、鎮咳去痰剤による故意の事故は、2015年11件、2016年21件、2017年20件、2018年27件、2019年36件と増加している。食品・その他では健康食品が昨年の159件から215件に増加した。
12)発生時刻分布
中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午後5時から午後8時台となっている。
13)動物の中毒に関する受信件数
動物の急性中毒に関する問い合わせは404件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、植物、食品などの問い合わせが多かった。
2.たばこ専用自動応答電話
2019年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は3,354件(1日約9.2件)であった。この件数を加えると2019年1年間にJPICが受信したたばこに関する問い合わせ件数は5,349件となる。
3.日本中毒情報センターWebサイト
2019年5月7日にリニューアルを行い、医療関係者向けの中毒情報を充実させた。リニューアル後のアクセスは約10万件で、そのうち医療関係者向けページへのアクセスは約1.3万件であった。
4.トピックス
JPICは中毒110番の電話相談を通じて、特定の製品(品目)による事故増加を察知し、注意喚起するトキシコビジランスの役割を果たしている。問い合わせが増加した製品や重篤な中毒をきたす製品を把握した場合は、該当製品や製品群について問い合わせ状況の推移を経時的に把握・監視することが必要である。近年の問い合わせ状況を考慮し、2019年受信報告より、表11に以下の品目を新設した。
1)家庭用品
・加熱式たばこ :「その他のたばこ」から分離
・虫よけ剤(ディート・イカリジン):ヒトの肌に使用する虫よけ剤(医薬品・医薬部外品)を「忌避剤・誘引剤」から分離し化粧品の項に追加
2)医療用医薬品
・精神神経用剤 :作用機序別に分割
・精神刺激薬(メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンほか):「精神神経用剤」から分離
・認知症治療薬:「その他の中枢神経系用薬」から分離
・不眠症治療薬(ラメルテオン、スボレキサントほか):「その他の中枢神経系用薬」から分離
・疼痛治療薬(プレガバリンほか):「その他の中枢神経系用薬」から分離
・糖尿病用剤:作用機序別に分割
3)農業用品
・クロルフェナピル:「その他の殺虫剤」から分離
・ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅰ阻害剤(METI剤)(テブフェンピラド、トルフェンピラド、フェンピロキシメート):「その他の殺虫剤」から分離
・殺虫剤/ネオニコチノイド剤:「その他の殺虫剤」から分離
・殺虫・殺菌剤/ネオニコチノイド剤含有:「その他の殺虫・殺菌剤」から分離
おわりに
問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、全体としては例年とほぼ同様の結果を示した。JPICでは引き続き新しい製品による事故動向を速やかに察知し、製造事業者や行政との連携をさらに強化して事故情報を共有するとともに、WebサイトやTwitterで事故防止につながる情報発信を的確に行っていきたい。
また中毒110番の30年以上の問い合わせ実績と経験を基にまとめた書籍「発生状況からみた急性中毒初期対応のポイント」については、既刊の「家庭用品編」に引き続き、「農薬・工業用品(TICs)編/化学剤編」を2020年6月に発刊した。実際に事故が発生した際に患者対応にあたる医師や看護師、薬剤師、また事故発生現場において対応するファーストレスポンダー、消防や警察など様々な職種の方々が、「自らの身を守りつつ」「状況を客観的に把握」し「起こり得る危険を想定」したうえで「的確に判断して対応」するための情報をまとめている。ぜひ多くの職種の方々にご活用いただくことを願っている。
医療従事者を対象とした中毒110番体験研修を今後も引き続き実施する予定である。後期臨床研修医や薬剤師を含め、多くの先生方にご参加をお願いしたい。(研修内容、申込先等の詳細についてはWebサイトを参照されたい)。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびWebサイト、Twitterアドレスを紹介する。
・ 一般専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
(大 阪) 072-727-2499
365日 24時間対応
(つくば) 029-852-9999
365日 9~21時対応
・ 医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
(大 阪) 072-726-9923
365日 24時間対応
(つくば) 029-851-9999
365日 9~21時対応
・ 賛助会員専用電話
賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・ たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
072-726-9922
365日 24時間対応
Webサイト:https://www.j-poison-ic.jp
Twitter:https://twitter.com/JPIC_Poisoninfo
なお、賛助会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX:029-856-3533
E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp