2017年受信報告
公益財団法人 日本中毒情報センター
目次
はじめに
2017年は2月にマレーシアでVXによる暗殺事件や、4月に中東のシリアで神経剤が使用されて市民に死傷者が発生するなど、海外で化学剤による被害が相次いだ。日本では2019年にG20サミットの開催が決定し、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、テロ対策強化の必要性が高まっている。
国内では特定外来生物で強い毒を持つ南米原産のヒアリが話題になった年でもあった。6月に兵庫県尼崎市において国内で初めて確認され、7月には福岡県で男性がヒアリに刺される人的被害が発生した。愛知県や東京都の港のコンテナなどでヒアリやアカカミアリが確認されており、他の外来生物も含めて今後も注意が必要である。
さて、日本中毒情報センター(以下JPICと略す)では情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、たばこ専用自動応答電話、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2017年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は6,185件(1日約17件)であった。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、一般市民向けではミラーサイトも含め約19万件を数えた。会員向けホームページへのアクセスは約6,000件、企業会員向けは約2,400件であった。
本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。
1.集計方法
集計の対象は、2017年1月1日から2017年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ32,768件である。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「たばこ専用自動応答電話」の利用件数6,185件は含まない(この件数を加えると2017年1年間にJPICが受信したたばこに関する問い合わせ件数は9,083件となる)。起因物質について、昨年と同様、複数物質を曝露した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒事故に関する問い合わせは397件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。
2.集計内容とその結果
1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ
対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。
2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
例年同様の傾向であるが、家庭用品に関する問い合わせは58%で、いずれの連絡者においても多く、次いで医薬品が32%で昨年とほぼ同様であった。
3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ
全体をみると、5歳以下の問い合わせが75%を占め、例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の問い合わせが81%を占め、医療機関では20~64歳と65歳以上の問い合わせで51%を占めた。その他(高齢者施設、薬局、学校、保健所、消防など)では65歳以上が38%であった。
4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数
患者の性別については家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品において20~64歳と65歳以上は女性が多かった。年齢層別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、食品,その他については5歳以下の問い合わせがいずれも80%程度と多いが、農業用品については20~64歳と65歳以上の問い合わせが77%と多かった。
5)発生場所別 受信件数
91%が自宅、知人宅などの居住内で発生しており、例年同様多かった。
6)起因物質数別 受信件数
単独物質の事故が92%で、残りが複数物質の曝露であった。なかには9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられ、最大は22種の医薬品を曝露した問い合わせであった。
7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ
各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では92%が不慮の事故で例年同様の傾向を示した。
8)年齢層別 摂取経路別 受信件数
複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が91%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。
9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無
すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は3割未満であったが、20~64歳では5割を超えていた。
10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について
5歳以下において、家庭用品ではたばこ関連品による事故が最も多く、次いで化粧品であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。そのほかの各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。
(2)自殺企図について
自殺企図1,014件では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が全体の約半数を占め、家庭用品の洗浄剤、農業用品の殺虫剤がそれに続いている。
11)品目別 受信件数
大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。家庭用品では、たばこ関連品の受信件数の内訳に変動がみられた。紙巻きたばこ(吸い殻を含む)は2015年2,128件、2016年1,895件、2017年1,278件と減少、一方でその他のたばこ(加熱式たばこを含む)は2015年26件、2016年444件であったが、2017年は1,279件と急増し、たばこ関連品の約44%を占めた。その他のたばこには、加熱式たばこ、噛みたばこ、電子たばこのニコチン含有リキッドなどが含まれるが、件数の増加分は加熱式たばこであった。そのほか、おもちゃが昨年の602件から709件に増加し、スライムに代表される感触を楽しむ玩具の問い合わせが多かった。食品、その他では飲料用アルコールが年々増加しており、2013年173件、2014年177件、2015年279件、2016年381件で、2017年は474件であった。乱用薬物、ストリートドラッグに関する問い合わせは、昨年の12件から5件と減少した。
12)発生時刻分布
中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時台と午後6時から午後8時台となっている。
13)動物の中毒に関する受信件数
動物の急性中毒に関する問い合わせは397件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、植物、乾燥剤・鮮度保持剤、中枢神経系用薬などの問い合わせが多かった。
おわりに
問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、全体としては例年とほぼ同様の結果を示した。
家庭用品では加熱式たばこの普及を反映し、加熱式たばこを含むその他のたばこの件数が急増した。加熱式たばこによる誤飲事故について、2016年からJPICホームページで情報発信しているが、件数増加の傾向は今後も続くと推察されるため、動向を注視したい。JPICでは引き続き新しい製品による事故動向を速やかに察知し、製造事業者との連携をさらに強化して事故情報を共有するとともに、ホームページやTwitterで事故防止につながる情報発信を的確に行っていきたい。
後期臨床研修医や薬剤師を含む医療従事者を対象とした中毒110番体験研修は今後も引き続き実施する予定であり、多くの先生方にご参加をお願いしたい(研修内容、申込先等の詳細についてはホームページを参照)。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページ、Twitterアドレスを紹介する。
[電話]
・ 一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
(大 阪) 072-727-2499
365日 24時間対応
(つくば) 029-852-9999
365日 9~21時対応
・ 医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
(大 阪) 072-726-9923
365日 24時間対応
(つくば) 029-851-9999
365日 9~21時対応
・ 賛助会員専用電話
賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・ たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
072-726-9922
365日 24時間対応
[ホームページ・Twitter]
http://www.j-poison-ic.jp
Twitter:https://twitter.com/JPIC_Poisoninfo
なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX:029-856-3533
E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp