2023年受信報告
公益財団法人 日本中毒情報センター
患者年齢層を10歳区分で集計した表を会員限定で公開しています。
はじめに
公益財団法人日本中毒情報センター(以下JPICと略す)では、中毒110番でのオペレーターによる電話応答のほか、たばこ専用自動応答電話、Webサイト、書籍、DVD-ROMなどの種々の媒体を通じて情報提供を行っている。本稿では、中毒110番での電話相談の受信記録を中心に集計・解析し、その結果を報告する。
1. 中毒110番受信記録
(1)集計方法
集計の対象は、2023年1月1日から2023年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ24,367件であり、すべて昨年同様の方法で集計・解析した。データには一般専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。起因物質について、昨年同様、複数物質に曝露した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。また、ペットなどの動物による急性中毒に関する相談は310件であり、別途集計した。なお、各表中の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、合計が一致しない箇所がある。
(2)集計内容とその結果
1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ
1) 都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ(表1)
対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、大阪およびつくば中毒110番の位置する近畿および関東からの相談の比率は、例年同様に高かった。
2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
一般市民では、家庭用品が53%と最も多く、次いで医薬品が36%であった。医療機関では、医薬品が49%と最も多く、次いで家庭用品が34%であった。
3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ
全体をみると、5歳以下の相談が67%を占め、例年同様の構成比を示した。連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の相談が72%を占め、医療機関では成人(20~64歳および65歳以上)の相談が52%であった。その他では、学校(保育所等を含む)および高齢者施設からの相談が多く、年齢層別では65歳以上が32%、5歳以下が27%であった。
4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数
患者の性別では、家庭用品、医療用医薬品、一般用医薬品、自然毒による成人の事例において、例年同様に女性が多かった。一般用医薬品の13~19歳は、女性が男性の3倍であった。年齢層別では、家庭用品、自然毒、食品,その他についてはいずれも5歳以下の相談が7割程度を占めたが、農業用品については成人が8割、工業用品については成人が5割であった。
5)発生場所別 受信件数
例年同様、自宅や知人宅などの居住内が89%と最も多かった。
6)起因物質数別 受信件数
単独物質の事例が90%で、残りは複数物質の曝露であった。最大は18種の医薬品を摂取した相談であった。
7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ
各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多かった。とくに5歳以下ではほぼ100%、65歳以上では93%が不慮の事故で例年同様の傾向を示した。
8)年齢層別 摂取経路別 受信件数
複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下では経口摂取が88%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事例の占める割合が低かった。
9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無
すべての起因物質において、5歳以下の有症状率は3割未満であった。一方、成人の有症状率は高く、20~64歳では農業用品、自然毒、工業用品、食品,その他で7割を超えていた。
10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について
5歳以下において、家庭用品では化粧品による事故が最も多く、次いでたばこ関連品であった。医療用医薬品と一般用医薬品ではともに中枢神経系用薬が最も多かった。6~19歳では医療用医薬品の事故が多く、9割以上が服薬時に親の薬を誤飲した、量を誤ったなどの医療上の事故だった。そのほかの各起因物質分類において、多少の変動はあるものの、全体の傾向は例年同様で大差はなかった。
(2)自殺企図について
例年同様に中枢神経系用薬の割合が高く、医療用医薬品の中枢神経系用薬が40%、次いで一般用医薬品の中枢神経系用薬が16%であった。
11)品目別 受信件数
大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。
家庭用品のうち、たばこ関連品では、加熱式たばこ(吸い殻、浸出液含む)の相談件数が1,136件と、たばこ関連品の7割を占めた。保冷剤の相談が増加傾向であり、2021年558件、2022年574件から2023年は687件に増加した。おもちゃでは、スライムの相談件数がここ数年増加しており、2022年153件、2023年173件であった。また、コンタクトレンズ用品の相談もここ数年増加しており、2021年139件、2022年156件、2023年186件であった。
医療用医薬品では、鎮咳去痰剤が2022年532件から2023年は561件に増加した。一方、診断用薬(COVID-19抗原検査キットの抽出液やPCR検査キットの保存液など:一般用、研究用含む)は2022年146件から2023年69件と減少した。一般用医薬品では、デキストロメトルファン含有鎮咳剤による自殺企図や乱用などの故意の事例が、2021年6件、2022年28件から、2023年は70件に増加した。そのうち58件は、2021年8月に発売された、医療用医薬品と同量を含有する鎮咳剤であり、年齢層は10歳代が45件と多かった。
食品、その他では、2022年に増加したカンナビノイド関連製品の相談が、2022年16件から、2023年は38件に増加した。相談件数はその他の危険ドラッグに計上した。過去に流行した危険ドラッグと同様、指定薬物に指定されると、規制対象外の新たな成分の相談が増加する傾向がみられ、2022年のHHC、THCOなどから、2023年はTHCH、HHCH、HHCPなどの相談に移り変わった。
12)発生時刻分布
中毒の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。JPICへの相談状況からみる限りでは、発生は例年同様、午前7時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午後5時から午後8時台となっている。
13)動物の中毒に関する受信件数
動物の急性中毒に関する相談は310件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では植物、殺虫剤、食品などの相談が多かった。
2.たばこ専用自動応答電話
2023年のたばこ専用自動応答電話の利用件数は2,453件(1日約6.7件)であった。この件数を加えると2023年1年間にJPICが受信したたばこに関する相談件数は4,037件となる。
3.日本中毒情報センターWebサイト
2023年のアクセス件数は約30万件で、そのうち医療関係者向けページへのアクセス件数は約2万件であった。花粉症の薬、スイセン、硫化水素の実験、防水スプレー、保冷剤、ギンナンなどについて中毒事故予防のため啓発資料を定期的に掲載した。
4.トピックス
品目の変更
JPICは中毒110番の電話相談を通じて、特定の製品(品目)による事故増加を察知し、注意喚起するトキシコビジランスの役割を果たしている。相談件数が増加した製品や重篤な中毒をきたす製品を把握した場合は、該当製品や製品群について相談状況の推移を経時的に把握・監視することが必要である。
近年の相談件数増減を背景に、2023年受信報告より表11の以下の項目を変更した。
・一般用医薬品:呼吸器官用薬 鎮咳去痰剤のうち、PPA非含有の中枢性鎮咳薬に集計していた「コデイン類含有鎮咳去痰薬」および「デキストロメトルファン含有鎮咳去痰薬」を新設し、「PPA含有 中枢性鎮咳薬」「PPA非含有 中枢性鎮咳薬」を削除した。
おわりに
2023年は、COVID-19流行に伴い相談件数が増加した除菌剤や漂白剤、検査キットなどは減少した。一方で、若年者による一般用のデキストロメトルファン含有鎮咳去痰薬の故意の事例や、カンナビノイド関連製品の相談はさらに増加した。デキストロメトルファンだけでなく、若年者の一般用医薬品の故意の摂取は社会問題にもなっており、対策に繋げられるよう、今後も特に注目していく予定である。また、カンナビノイド関連製品については2023年3月にTHCO、HHCOが指定薬物に指定され、その後2023年9月、2024年1月、2024年5月に物質群として指定薬物に指定されることが公布され、施行されたことから、事故減少に期待するとともに、今後も引き続き動向を注視したい。JPICでは引き続き新しい製品による事故動向を速やかに察知し、製造事業者や行政との連携をさらに強化して事故情報を共有するとともに、WebサイトやXで事故防止につながる情報発信を的確に行っていきたい。
最後に中毒110番の電話番号およびWebサイト、Xのアドレスを紹介する。
[電話]
・ 一般専用電話(情報提供料無料、通話料のみ)
365日 24時間対応
(大阪) 072-727-2499
(つくば)029-852-9999
・ 医療機関専用有料電話(情報提供料:1件につき2,000円)
365日 24時間対応
(大阪) 072-726-9923
(つくば)029-851-9999
・ 賛助会員専用電話
賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・ たばこ専用自動応答電話(情報提供料無料、通話料のみ)
365日 24時間対応
072-726-9922
[Webサイト・X]
Webサイト:https://www.j-poison-ic.jp
X:https://x.com/JPIC_Poisoninfo
なお、賛助会員についての資料請求は、以下へお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX:029-856-3533
E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp