2007年受信報告
公益財団法人 日本中毒情報センター
目次
はじめに
2007年も中毒関連の事件・事故が多い一年であった。1月、北海道で都市ガス導管が破断し一酸化炭素を含むガスが民家へ流入し住民が死傷する事故が起きた。インターネット上の自殺サイトで知り合い、集団で自殺するいわゆるネット自殺が多発し、練炭による一酸化炭素中毒はもとより入浴剤とトイレ用洗浄剤の混合で発生した硫化水素を吸入する新手の手法による中毒事故が発生した。幼児向け玩具の塗料への鉛混入、練り歯磨きや医薬品の甘味料としてのジエチレングリコール混入等の中国製の製品への化学物質混入が多数報道された。これらの中毒事故および報道に関連する問い合わせが日本中毒情報センター(JPIC)へ相次いだ。さらに12月には、後にメタミドホスが混入した中国製冷凍ギョウザによると判明した有機リン中毒事件が起きている。
また、湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故をはじめとする消費生活用製品に起因する事故の相次ぐ発生をうけて、消費生活用製品安全法が改正され2007年5月に施行された。これによりメーカー側の重大製品事故の報告義務が定められた。JPICでは、この改正消費生活用製品安全法の遵守・徹底と、消費生活用製品の安全管理等に寄与するため、把握した製品事故情報をメーカー側に速やかに報告するサービスを2008年度より開始する。
厚生労働省の委託事業である「NBC災害・テロ対策研修」は2年目を迎えた。5回の研修で49医療チームの研修を終了し、各都道府県ほぼ1チームの養成を行ったことになる。
さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2007年のタバコ専用応答電話の利用件数は15,369件(1日約42件)で、賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は、18件であった。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、一般市民向けではミラーサイトも含め約151,700件、会員向けは約6,600件であった。企業会員向けホームページへのアクセスは約1,100件であった。JPICホームページには、国内外で発生した化学災害のうち、新聞報道などで話題となった内容についてニュース欄に原因物質などの情報を積極的に掲載した。本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。
1. 集計方法
集計の対象は、2007年1月1日から2007年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ33,932件である。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数15,369件は含まない(この件数を加えると2007年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は18,707件となる)。起因物質について、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。
2. 集計内容とその結果
1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ
対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。
2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
例年同様の傾向であるが、いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多かった。とくに、一般市民からの問い合わせは家庭用品が70%と圧倒的に多いが、医療機関からは家庭用品42%、医薬品36%、次いで農業用品、工業用品の順で、様々な起因物質の問い合わせがあった。
3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ
全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが75%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50~100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが87%を占め、医療機関では53%の問い合わせが20歳以上の成人であった。
4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数
昨年同様、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせでは、家庭用品が82%と圧倒的に多く、次いで医薬品であったが、20歳以上の成人の問い合わせでは、農業用品が78%と多かった。
5)発生場所別 受信件数
例年同様、90%が自宅、知人宅などの居住内で発生していた。
6)起因物質数別 受信件数
単独物質の事故が93%で、残りが複数物質の曝露であった。なかには9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられ、最大は23種の物質を曝露した問い合わせであった。
7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ
各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児では99%以上が不慮の事故である。例年同様、年齢層が高くなると故意の事故が増加し、13歳~19歳では52%、20歳~64歳では36%が故意の事故であるが、65歳以上の高齢者では不慮の事故が83%と多かった。
8)年齢層別 摂取経路別 受信件数
複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下の乳幼児では経口摂取が94%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。
9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無
例年同様、13歳~64歳の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高かった。家庭用品以外では65~88%に何らかの症状がみられた。
10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について
5歳以下の乳幼児では昨年同様、化粧品が最も多く、ついでタバコ関連品であった。各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。
(2)自殺企図について
自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が8割を占め、農業用品の殺虫剤、家庭用品の洗浄剤がそれに続いている。
11)品目別 受信件数
大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。全体的に大きな変動はみられなかった。家庭用品においては、2000年から減少傾向にあったタバコ関連品の問い合わせ件数が、2007年に増加したほか、報道されたケミカルライトに関する問い合わせが増加した。食品・その他では、2006年に一時減少した健康食品に対する問い合わせが再び増加した。一方で、一般用医薬品のナファゾリン含有外用殺菌消毒剤や、食品・その他の乱用薬物、ストリートドラッグに関する問い合わせは減少した。
なお、一般用医薬品の一部が2004年の規制緩和措置により新範囲医薬部外品に移行されたが、本稿では従来どおり医薬品として集計した。今後の取り扱いに関しては、現在検討中である。
12)発生時刻分布
中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は昨年同様、午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時台と午後6時台となっている。
13)動物の中毒に関する受信件数
動物の急性中毒に関する問い合わせは699件であった。一般市民からの問い合わせは、2006年の1.4倍に、更に10年前(1998年)と比較すると約3倍に増加した。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ
(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、植物、乾燥剤・鮮度保持剤などの問い合わせが多かった。
おわりに
問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。JPICは2006年9月9日に一般市民に対する情報提供料を無料化とした。これに伴い2007年の一般市民専用電話への問い合わせは前年より22%増加した。携帯電話、IP電話からの問い合わせが可能となったためと考えられる。中毒110番業務とともに、2006年5月より開始した医薬品による副作用など緊急の安全性に関する情報提供に加え、今後は、前述した消費生活用製品による重大事故に関する情報を迅速かつ充実した内容で提供できるよう体制の強化を図りたい。また、2008年7月に開催される北海道洞爺湖サミットの救急医療体制における化学テロ・災害対策を立案し実施する予定である。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページアドレスを紹介する。
[電話]
・一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
(大 阪) 072-727-2499
365日 24時間対応
(つくば) 029-852-9999
365日 9~21時対応
・医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
(大 阪) 072-726-9923
365日 24時間対応
(つくば) 029-851-9999
365日 9~21時対応
・賛助会員専用電話
賛助会員(医療従事者、医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・たばこ専用自動応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
072-726-9922
365日 24時間対応
(テープによる情報提供)
http://www.j-poison-ic.or.jp
(ミラーサイト http://wwwt.j-poison-ic.or.jp)
なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFAXにてお申し込み下さい。
公益財団法人 日本中毒情報センター
本部事務局 FAX:029-856-3533