2001年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

はじめに

(財)日本中毒情報センター(JPIC)は2001年に設立15周年を迎えた。15年間に60万件を超える問い合わせに対応することができたのも、多くの方々のご支援の賜物と深く感謝する次第である。また、厚生労働省の委託を受け、化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」を諸先生方のご協力のもと2001年3月に開催し、全国の救命救急センター、災害拠点病院の医師や分析担当者の方々に多数ご参加いただくことができた。この化学災害研修は2002年度に第2回目を開催する予定である。
さて、本稿の報告対象となるのは、オペレーターによる電話応答のみであるが、このほかJPICでは情報提供手段として、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROM等を引き続き活用している。2001年のタバコ専用応答電話の利用件数は13,195件(1日約36件)と増加し、賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は144件であった。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、ミラーサイトも含め2001年1年間で68,106件であった。また、2001年8月より開始した「賛助会員向けホームページ」へは、開設以来4か月で約2,000件のアクセスを頂いた。この「賛助会員向けホームページ」は、医療関係者向けに、より専門的な情報を発信するサイトとして、今後も内容を充実していく予定である。なお、2002年より、「賛助会員向けホームページ」を賛助会会員以外の医療関係者の方にも利用いただくために、「ホームページ会員」を募集している。詳細については、JPICホームページを参照されたい。
オペレーターによる電話応答は従来と同様の体制で行ったが、受信記録をより詳細に記載する方向で、集計解析方法を今回より一部改めた。その結果を以下に報告する。

1. 集計方法

集計の対象は、2001年1月1日から2001年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ38,150件である。受信データにはダイヤルQ2、医療機関専用電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数13,195件は含まない(この件数を加えると2001年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は17,737件となる)。起因物質については、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

2. 集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ

対人口10万比は各都道府県とも昨年とほぼ同様であり、大きな変動は見られなかった。
両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率が高いのも例年同様である。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

例年同様、家庭用品に関する問い合わせが60%以上を占め、特に一般市民では74%と非常に高い。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ

連絡者は、従来「一般市民」「医療機関,その他」としていたが、表1,2に準じ、「一般市民」「医療機関」「その他」とした。5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが8割近くを占め、対人口10万比では他の年齢層の50~100倍に相当する。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数

家庭用品・医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多く、農業用品については20歳以上の成人が70%以上と圧倒的に多い。

5)発生場所別 受信件数

居住内を患者自宅とそれ以外(親類宅、友人宅等)に分けて表示した。約90%は自宅、友人宅などの居住内で発生している。

6)起因物質数別 受信件数

97%は単独物質の事故であるが、残り3%は複数物質の曝露であり、中には9種以上の物質の曝露による事故も認められる。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ

基本的には従来の形式と同じであるが、表示にあたり、発生状況を『不慮』と『故意』の大きく二つに分け、『不慮』の中で「誤飲・誤食等」と「労災」を、『故意』の中では「自殺企図」と「その他」を区別して表示した。なお、ここでいう「誤飲・誤食等」の中には、意図しない誤使用なども含んでいる。
5歳未満の乳幼児では99%以上が誤飲・誤食、誤使用などの不慮の事故であるが、年齢層が高くなると、故意の事故率が増加している。一方、65歳以上の高齢者では不慮の事故の割合が高い。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数

今回より複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示した。したがって表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。また、今回より全身曝露の項を新設したところ、成人のみでなく5歳以下の乳幼児でも認められた。
13~64歳では吸入事故の占める割合が他の年齢層に比べ高い。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無

従来は問い合わせ受信時の症状の有無を基準としていたが、今回より、曝露から問い合わせ受信までの間に何らかの症状があった場合はすべて有症状として計上した。そのため大半の起因物質・年齢層で、従来に比べて有症状の割合が高くなっている。
13歳以上では小児に比べて有症状率が高く、特に家庭用品以外では大半で何らかの症状が認められている。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目

 (1)誤飲・誤食等について
従来の「不慮の事故」に関する表であるが、表7の変更にともない『不慮』の「誤飲・誤食等」について集計した。ここでいう「誤飲・誤食等」の中には、意図しない誤使用なども含んでいる。また、年齢層に「6~19歳」を追加し、「20歳以上」を「20~64歳」「65歳以上」に分割した。
例年と同じく5歳以上の乳幼児ではタバコが最も多いが、年々減少している。一方、医薬品は医療用医薬品、一般用医薬品を合わせると約6,400件となり、増加傾向にある。

 (2)自殺企図について
自殺企図では医療用・一般用医薬品とも中枢神経系用薬が非常に多く、殺虫剤がそれに続いている。

11)品目別 受信件数

大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。従来は品目ごとの総受信件数および括弧内に医療機関・その他からの件数のみを表示していたが、今回から連絡者別、年齢層別の受信件数を表示した。また、品目としては、医療用医薬品に最近問い合わせが多い抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)、自然毒に幻覚性キノコで社会的問題になっているマジックマッシュルーム、および幼児の誤食事故が多いヨウシュヤマゴボウを追加した。
芳香剤、消臭・脱臭剤は前年比16%増で、年々増加する傾向にあり、その大半が5歳以下による事故である。一方、家庭用品の殺虫剤は9%減で、特にホウ酸団子は21%減となっている。

12)発生時刻分布

中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。今回より、大阪中毒110番とつくば中毒110番を合わせて表示した。これにより、問い合わせ受付時間の違いによるグラフ形状の差が解消し、実際の事故発生時刻をより端的に表現していると考える。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りは、事故発生は午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前11時となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数

動物の急性中毒に関する問い合わせは584件であった。

(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ

(2)起因物質分類別 受信件数上位品目
動物では殺虫剤、殺鼠剤などの問い合わせが多い。

おわりに

問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。
品目別受信件数でみると、マジックマッシュルームは1997年に1件受信して以降、1998年10件、1999年19件、2000年32件、2001年55件と増加しており、社会現象を反映しているものと思われる。このように世相を反映した中毒の増加にもできる限り早く対応し、情報を的確に発信していくことが日本中毒情報センターに課せられた使命と考えている。
また今後は特に、問い合わせの6割以上を占める家庭用品による事故に関して、発生状況等を詳細に分析し、発生要因を明らかにすることによって、事故防止に貢献していきたいと考えている。
最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページアドレスを紹介する。

電話
・中毒110番 (大 阪)0990-50-2499(ダイヤルQ2)365日  24時間対応
      (つくば)0990-52-9899(ダイヤルQ2)365日 9~17時対応
・医療機関専用有料電話 (大 阪)072-726-9923  365日  24時間対応
            (つくば)029-851-9999  365日  9~17時対応
・賛助会員専用電話 賛助会員(病院、企業、行政等)にのみ電話番号を通知する、年1回更新
・タバコ専用電話  072-726-9922  365日  24時間対応(テープによる情報提供)

ホームページ http://www.j-poison-ic.or.jp
(ミラーサイト  http://wwwt.j-poison-ic.or.jp)

なお、賛助会、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFaxにてお申し込み下さい。
財団法人日本中毒情報センター 本部事務局 FAX:029-856-3533