1994年受信報告

公益財団法人 日本中毒情報センター

1)都道府県別受信件数

1994年度総受信件数:38,867件(過去5年間毎年増加傾向であったが,本年度は前年度とほぼ同程度であった。図1にコメントしたように,阪神大震災による通話不通によるものと考えている)。対人口10万比:平均31件,最高61件(大阪府)~最低10件(秋田県)。鳥取県の3割り増しが目立ったのみ。関東・近畿・東海の3地域の受信件数合計値(29,590件)の全国構成比:76.6%〔3地域人口,7,616万人の対全国人口構成比=60.9%〕,対人口10万比:39件。3地域を対人口10万比で前年と比較すると,関東,東海が減少し、関西のみが増加していた。Q2導入による遠隔地域の利用減を示すものと考えられる。

2)電話連絡者別起因物質(大分類)別構成比

全般に昨年並。起因物質別連絡者分布における医 療機関の構成比でみる限り,本年度も農薬において80.5%を占め医療機関からの問い合わせが大部分であった。ついで工業用品での医療機関構成比が45.9%と高値で,前年度より増加した。これは,図2に示したように,3月20日の東京地下鉄サリン事件におけるサリン中毒処置に関する問い合わせ殺到(サリン関連だけで,1日142件)によるものである。他の起因物質では連絡者分布に大きな変動はなかった。

3)電話連絡者別年齢分布

昨年同様に,一般市民からの受信件数は5歳以下の乳幼児による摂取事故が全体の92%を占め,医療機関他からのケース(46.4%)と有意な差がみられた。医療機関他からは20~64歳の成人層がかなり多く(33.4%),65歳以上の高齢者も一般市民に比べて件数,構成比率ともに多くなっている。これらは受信時有症率とかなり相関していた(表11)。対人口10万比受信件数では,1歳未満が950.9件で昨年同様に,成人層に比べて約200倍となりきわめて高い件数である。1歳未満のうちでもほとんどが6ヵ月齢以上であるから実際は約400倍となる。したがって,1歳未満の層としては,その摂取事故はきわめて異常発生となり,結局50人に1件という割合になる。1~4歳でも411.5件で85倍である。両層を合わせた5歳以下の乳幼児では519.4件となり,成人層の108.2倍の摂取事故が発生していることになる。これらの結果は1993年度とまったく類似していた。

4)起因物質別年齢層および性別比較

一般市民からの受信件数について起因物質別に年齢層間の比較をすると,農薬,自然毒を除く家庭用品,医薬品,工業用品などによる摂取事故が5歳以下の乳幼児で80~95%を占めている。またこれらでは,男児が女児よりも多いか同じ程度である。20歳以上になると女性が多くなる。

医療機関からの件数では,家庭用品を除けば20~59歳の成人層の摂取事故が40~68%を占め,家庭用品および医薬品では女性が,その他は男性が多くなっていた。これらの結果は1993年度とまったく同様の傾向である。

5)品目別 受信件数

6)起因物質別年間受信件数によるベスト5一覧表

家庭用品では,新たに医療機関よりの肥料・植物活力剤に関する問い合わせが増えてベスト5に加わった。医薬品では,一般市民よりのビタミン剤の受信件数増が目立った。総合ビタミンのドリンク剤の市況と関係しているように思われた。工業用品の医療機関よりの問い合わせに,新たにサリンが加わった。これは東京サリン事件によるものである。その他農業用品,自然毒,食品その他は前年並であった。

7)年齢層別発生動機比較

一般市民からの問い合わせのケースでは,どの年齢層においても不慮の事故によるものが圧倒的に多い(99.1%)。医療機関他からの問い合わせでは,成人層における意図的摂取が約50%占めている。また,高齢者層では不慮の事故が約75%となり,成人層と対照的である。

8)年齢層別摂取経路

一般市民,医療機関ともに経口摂取が最も多い(65~99%)。ただし,成人層では経口以外の摂取がやや多くなる。

9)摂取経路別発生動機

一般市民,医療機関ともに,意図的摂取はほとんど経口および吸入によるものであるが,とくに医療機関ではその割合が大きい(17.2%)。

10)発生場所と発生動機の関係

一般市民および医療機関ともに居住内が最も多い。職場での事故はほとんどが農業での散布によるものである。

11)年齢層別症状の有無の比較

一般市民および医療機関ともに,受信時有症状率が5歳未満の乳幼児ではきわめて低く,5歳以上では20%以上と高くなる。とくに成人層では,意図的摂取が多いため有症状率が最も高い(48~75%)。

12)起因物質別有症状率

一般市民では家庭用品と医薬品のケースで受信時有症状率が5~8%と低い。医療機関では全般に有症状率が高い(約20~80%)。

13)年齢層別回答区分(一般市民)

「直ちに受診」を要するケースが,各年齢層とも昨年を上まわる(全体で15.2%)。なお,この表では,一般市民からの問い合わせに対する回答区分データのみ示したが,医療機関に対する回答区分はすべてJPICの提供した情報に基づいて,医療機関の責任において処置が行われるため,「情報提供」のみとなる。